千住 博

時代の先を行く現代日本画の巨匠、千住博』

  

千住博といえば、現代の日本画壇を担う重鎮のひとりです。メトロポリタン美術館をはじめとして世界中の美術館に作品が展示・収蔵されており、その活躍の幅はとどまるところを知りません。

今回はニューヨークを活動の拠点として国際的に活躍する日本画家、千住博について紹介します。

 

千住博とは

 

千住博はその時々で心奪われたものをモチーフとして取り上げながら、たくさんの作品を制作しました。対象物が引き立つように無駄なものを省き、シンプルな構図で描いているのが特徴といえるでしょう。

  

 

千住博がよく取り上げるモチーフ

   

千住博は「水」を描いた作品を多く制作していますが、なかでも「滝」を描いた作品は多くあります。「千住博といえば滝」という方もいるほど、滝は彼の代名詞にもなっているモチーフです。

滝を描いた作品には『ウォーターフォール』や『ザ・フォール』がありますが、力強く流れ落ちる水を勇壮に描いた作品からは、まるで水しぶきがあがる音が聞こえてくるかのように感じられるでしょう。 

また、波を描いた作品には『タイドウォーター』がありますが、この作品は画面いっぱいに波立つ海を描いた作品です。波を描くことによって、波を発生させる月の引力や、海面の下に存在するであろう生命の神秘までも表現している美しい作品となっています。

他にもキラウェア火山と湧き水を描いた『フラットウォーター』や、『水の惑星』という柔らかな色彩で描かれた版画作品なども制作しています。

 

砂漠

砂漠も千住博の心を惹きつけたもののうちのひとつです。千住博は、初め砂漠を「死」の象徴として捉えていましたが、実際に砂漠に取材に行ってその地に立ったときには、逆に「生きている」ということを強く実感したのだそうです。

生まれてきたことへの感謝の気持ちや、大宇宙の中で「生かされている」という感覚が芽生えたとき、砂漠は「生」の象徴へと変化しました。

砂漠を描いた作品には『ライフ』や大徳寺聚光院伊東別院の襖絵などがあります。何もない砂漠で感じられた圧倒的な大自然の力がそこには描かれているのです。

  

 

千住博が用いた画期的な技法

 

千住博は若いころ版画家を目指していた時代がありました。そのためか版画制作にも熱意を持っており、エッチング、リトグラフ、シルクスクリーンなどのさまざまな作品が制作されています。千住博の作品を手元に置いて楽しむには版画がおすすめといえるでしょう。

さて、先ほども紹介した通り、東洋的な思想では人と自然が一体となることを理想としています。もし千住博の作品に描き出される自然の大いなる力を身近に感じながら、自らもそれらの一部であるということを認識するひとときを過ごすことができれば、それは日々忙しい現代人にとって究極の癒しとなるに違いありません。千住博の版画作品を手元に置いて、大自然、宇宙の神秘に思いを馳せてみませんか?

 

  

絵画以外にもさまざまな作品が

 

現代日本画の巨匠として有名な千住博ですが、絵画以外の分野でも幅広く活躍しています。例えばヴェネツィアン・ガラスや絵本などの作品、舞台芸術の世界でもその才能を感じ取ることができるでしょう。

千住博の『星のふる夜に』は、迷子になった小鹿が星空の下でさまよう姿が描かれる字のない絵本。夜の景色のなかをひとり冒険した小鹿が、最後は流れ星に導かれて親鹿に再会するというストーリーになっています。優しい色彩で描かれており、子どもへのプレゼントにぴったりのこの作品は、版画にもなっています。

 

  

千住博の歩み

 

千住博は昭和33年に東京で生まれました。工学博士の父親と教育評論家の母親の間に生まれており、弟は作曲家の千住明、妹はヴァイオリニストの千住真理子です。幼いころは兄弟そろってヴァイオリンを習っていたようですが、音楽の世界に進んだ弟妹とは違い、彼だけが絵画の道を究めることとなりました。

東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻に入学後、そのまま博士課程まで進みます。若き日の千住博は同大の教授であった稗田一穂や、大学外では杉山寧に師事して日本画を学んでいました。

 

版画や工芸作品も

加山又造は絵画作品だけでなく、版画や陶磁器、着物や帯、ジュエリーのデザイン、自動車のデザインなども幅広く手掛けています。その作品の数々を見ていると又造の多才ぶりに驚かされる人も多いでしょう。これらには、日本画にみられるような彼独自の美意識が存分に反映されているのが特徴。今泉今右衛門などの有名な陶芸家との競作もいくつか残しています。

 

  

初期の作品

 

まだ千住博が駆け出しの日本画家であった頃、最初に千住博が心惹かれたのがビルです。東京生まれでビルに囲まれて育った千住博は、東京藝術大学在学中からビルをモチーフとして多くの作品を制作しました。

次に彼が心を惹かれたのは、自然に生える樹々や草花です。これらを題材にして描かれた作品は楽園シリーズと呼ばれ、実際に赤道直下の地を歩いて取材し、制作されました。

まだまだ無名であった千住博がビルや自然の植物を通して表現しようとしたのは、時の流れだといいます。そのような試みが初めて世界に認められたのが『フラットウォーター』においてでした。

ハワイのキラウェア火山の溶岩が海に流れ込むことで生まれ続ける風景。それは新しい風景でありながら原初の地球を想像させるものでもあります。そこに存在する神秘的で清らかな湧き水を描いたその作品は、「ギャラリーガイド」の表紙に選出され、全米ネットのテレビで紹介される話題の作品となりました。『フラットウォーター』を通して千住博は日本画家として世界に知られるようになります。

 

世界に羽ばたいた千住博

その後、千住博はそのモチーフを滝へと変化させ、『ウォーターフォール』を初めてニューヨークのグループ展で展示します。絵の具を画面の上方から下方に向けて自然に垂らすことで、実際の滝の持つリアリティを表現したその作品は、シンプルな構図ながら圧倒的な存在感で見る人の心に迫る力強さを持っています。

平成7年、第46回ヴェネツィア・ビエンナーレにおいては『ザ・フォール』という滝を描いた作品が話題に。黒く塗った室内に白く輝く滝が神秘的な美しさを持って描かれたこの作品で、千住博は東洋人で初めての名誉賞を受賞しました。

また、日本では京都にある大徳寺聚光院の襖絵や、和歌山県にある高野山金剛峯寺の襖絵にも、千住博の芸術の神髄を見ることができるでしょう。特に令和2年に奉納されたばかりの高野山金剛峯寺の『瀧図』と『断崖図』は、世界遺産である金剛峯寺に作品が1000年以上残ることを見据えて描かれ、千住博の集大成ともいえる魂のこもった大作となっています。

   

 

自然の側に身を置き、日本画の可能性を探り続ける千住博

 

自らの芸術を真摯に追い求め、それを完成させるためなら古い慣習も躊躇なく飛び越える千住博。彼はモダンな空気をまといつつも東洋的な思想を内に秘めたその作品をもって、日本画を新たな境地へと押し上げました。

平成30年にはチームラボという世界的にも評価の高いデジタルアート集団とコラボレーション展を開催するなど、いまもなお新しいことにチャレンジし続ける千住博は、日本画の可能性を探り続けています。千住博のこれからの活躍から目が離せません。